漢方における病態を把握する指標として八綱(はっこう)があります。
八綱には、陰陽(いんよう)、虚実(きょじつ)、寒熱(かんねつ)、表裏(ひょうり)の概念があります。今回は八綱の中の陰陽と虚実について書いていきます。
陰陽
陰には暗い、寒い、消極的というような意味があり、陽には明るい、温かい、積極的というような意味があります。この意味を、そのまま漢方に当てはめて考えたものが陰陽の概念です。この概念は、絶対的なものでなく相対的なもので、相手と比べて陰か陽かをみます。
陰陽には人の部位毎の陰陽と、人の体の性質の陰陽があります。
人の部位毎の陰陽
人の体の部位毎の陰陽をみた場合は、人が四つん這いになって日光が当たる部位を陽、当たらない部位を陰とします。この考え方を当てはめると、背中は陽、腹部は陰となります。
例えば、葛根湯を肩こりに対して使う場合、葛根湯は太陽病の処方のため、背部の脊柱に沿ったコリの改善に用いられます。
人の体の性質の陰陽
人の体の性質を陰陽で分けてみると、新陳代謝が亢進し、活動的な状態が陽証、新陳代謝が低下し、非活動的な状態が陰証になります。
つまり、陽証は暑がりで冷たいものを好み顔が紅潮した状態を表していて、治療はこれらを冷やすように行います。陰証は寒がりで顔色が青白い状態を表していて、治療はこれらを温めるように行います。
虚実
虚には、中身がないというような意味があり、実には、中身が詰まっているというような意味があります。これを漢方に当てはめると、虚は緊張がない、生命力が不足した状態と表し、実は緊張がある、力強いと表すことができます。
虚実をみる場合、体質の虚実と、病毒の虚実を区別して考えます。
体質の虚実
体質の虚実は、普段の体質についてみたもので、筋肉質で体力がある状態を実、やせていて体力がない状態を虚と判断します。実際には、1人の人でも実と虚が混在しているので鑑別が難しいです。
そこで、消化器症状と活動性に着目して分類します。これで分類すると、実証は早食い、食事を抜いても平気、疲れにくく活動的といった特徴があり、虚証は胃腸が弱く下痢しやすい、疲れやすい、抵抗力がないといった特徴があります。
漢方薬の例として、月経痛の訴えがある女性に対して漢方を使用する場合、虚証の人に対しては当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、実証の人に対しては桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が用いられます。
しかし、実証の人に全て実証に対する処方をするわけではありません。例えば、実証の人が夏バテをした場合を考えてみます。夏バテは虚証の状態なので、これを治療する場合は虚証に対する処方で対応します。このように、実証の人に対しても虚証に対する処方で対応することがあります。
病毒の虚実
病毒の虚実とは、病気に対して体に現れた闘病反応で虚実を鑑別することをいいます。闘病反応が激しく発熱、発赤、疼痛などが充満している状態を実(邪実)の状態、闘病反応が弱く発熱、発赤、疼痛などが少ない状態を虚の状態といいます。
例えば、月経痛がある虚証の女性に対して、通常は当帰芍薬散を用います。しかし、下腹部の痛みが強い場合は、これを邪実と判断して桂枝茯苓丸を用いることがあります。
虚実に対する治療方針としては、実に対しては病毒を体外へ排出する発汗法や瀉下法で対応し、虚に対しては生命力を補うように対応します。
証
今回、証という言葉が出てきましたが、証とはその時点での病人の訴えや苦痛などの身体所見と体質の傾向などを検討して処方を決定するための指標、つまり処方の適応病態と考えます。